シルクアイテムができるまで①

シルクアイテムができるまで①

ー逆算されたものづくりの始まりー

この豊田で、お蚕さんの命の力を借りて、誰かの元気となり自信となるシルクの商品を作りたい。その思いは明確になったものの、そこからどう動き出せばよいか分からなかった。

そもそも、シルクの生地が織り上がるまでに、どんな工程があるのか?ひとまず、インターネットで調べてみる。製糸?撚糸?精練?聞いたことのない言葉ばかり。

わからないなりにも、お蚕さんを育てる(養蚕)→繭を糸にする(繰糸)→糸を撚り合わせて強くする(撚糸)→精練・染色→織る(製織)→整理加工、といった工程があることを知った。

で、どこに行けば、その加工を施してくれるのか?何も分からない私は、インターネットの検索に出てきた、製織工場、機織りの産地、服飾の学校、テキスタイルマテリアルセンター。とにかくいろいろなところに電話をしてみた。そして、長野県岡谷蚕糸博物館にたどりつき、学芸員の先生と出会うことができた。

私「シルクで商品を作りたいんです。お蚕さん5,000頭で、どのくらいの糸ができて、織ったら何メートルの生地ができるのでしょうか。」

先生「シルクで、あなたは何を作りたいの?」

私「…まだ具体的にはわからないのですが、シルクスカーフとか、シルクの布ベルトとか、です。」

先生「シルクでも、何を作るかによって、求められるものが変わります。シルクスカーフなら、柔らかい風合い、光沢。シルクの布ベルトにするには、毛羽ただない強いもの。作るものによって製織工場も違うんです。さらに、織りの前の工程の、糸の太さや撚り回数などの仕様も異なります。さらにさらに…」

私「えっと…」

先生「つまり、最終的には、作るもの、商品によって、お蚕さんの育て方や品種、そして、桑の種類も異なります。」

私「…」

先生「まずは、シルクで何を作るか決めて、そのために求められる要件を書き出すのです。そして、そのシルク商品を見据えた養蚕をするのです。」

「商品を見据えた養蚕」という言葉がとても新鮮だった。できた繭から糸をつくり、その糸で織れば、商品ができるなんて考えは、とても浅はかだと気がついた。どんなカレーを作りたいか明確にして、そのカレーに合うじゃがいもの品種を選んで、カレーに合う環境でカレーに合った育て方をして、カレーに合った調理をしたほうが、美味しいカレーができるに決まっている。原材料から作るからこそできる、「逆算されたものづくり」。

その日から、どんな商品を作るか悩みに悩んだ。そして、「結んだらほどけにくい」というシルクの良さを生かした、ネクタイでもなくスカーフでもない「リボンタイ」を作ろうと決め、要件を書き出した。その要件を満たす糸の仕様を決め、その糸にするための養蚕を、養蚕チームにお願いをした。

お蚕さんの命、一生に、「リボンタイになる」というある種使命のようなものを課した養蚕。こうして、私たちだからこそできる、逆算されたものづくりが始まった。